吹奏楽部が暑い季節になってまいりました。とある中学校ではオーケストラ曲の吹奏楽アレンジ版に取り組んでいます。
 演奏していて、「もっとドルチェで!」とか「もっとやわらかく!」、「やさしく!」と言われる事があります。これがとても難しいですよね。フルートは息のスピードを上げて元気よく吹くところからスタートしますが、だんだんとこのような要求にも応えられるようにならなければなりません。特に高音域でやわらかく吹くのはとても難しいです。吹奏楽でオーケストラものを演奏するときは、弦楽器のしなやかさを表現しなければならない場面が多々あります。そういう時にも、音の質をコントロールすることは非常に重要です。

音の質感を左右するもの

 音の質感は吹き方でいくらでも変えられるのですが、それにはアパチュア(両唇の間に出来た息の通り道)にどれくらい息が通っているか、つまり密度が大きく関係していると私は思います。
 例えば同じアパチュアの大きさでも、そこをたくさんの息が通るのと、少ない息が通るのでは息のスピードが変わります(後者の場合、少なすぎると中音域以上が出ませんが)。ざっくり言いますと、密度の高い速い息は芯のある強い音を生み出し、音量も増します。逆に密度の薄いゆっくりした息は、ソフトな音になりやすいです。曲中でやわらかい音を出したいのなら、後者を目指すことになります。

「やわらかい音」との遭遇

 大方の原因は息の集めすぎ、もしくは息の吐きすぎです。どちらも息の密度を高めてしまうので、強い音になってしまいます。なるべく息を集めない、吐かないコントロールが必要です。
 しかし狼狽える方もいると思います。これは今までのやり方と反対かもしれませんよね。フルートを始めた頃は加減が難しいので、とにかく上の音が出せるようになりたくて一生懸命吐きます。ですが暫く真面目に取り組むと、そんなにたくさん吐かなくても音は出るということが分かってきます。今回の話はさらにその上のコントロールということになります。つまり、出したい音域がちゃんと鳴るギリギリで、密度低めの息をキープする訳です。
 私にはこれを習得する大きなきっかけがありました。オーケストラでマーラーの交響曲第9番を演奏した際、第1楽章の最後にフルートとホルンのソリ(ソロの複数形)があります。最高音域周辺をpp(ピアニッシモ)で吹かなければならないのですが、自分の演奏には全くエレガントさのかけらもなく、到底ppにも聞こえず愕然としました。そこで、この音域でやわらかい演奏をするにはどうしたらいいのか、徹底的に研究したのです。なので皆さんも、この問題に出会った時がそのタイミングなのです。

どうやって「やわらかく」吹くか

 具体的には、息を使いすぎないように、ゆっくり吐くことを常に意識するようにしました。吸って肺に入ってきた空気をゆるくキープする感覚です。そしてフルートをじっくり鳴らすようにします。息を速く使うのは難しくないので、ゆっくりじっくり吐いて丁寧に響かせます。これをソノリテの練習などの時に意識するようにしました。
 この意識を「お腹の支え」と言っていいのかどうか現在迷っていて…そもそも自分が腹式呼吸で吹くことについても違うんじゃないかと思って研究しているところなので(もちろん腹式呼吸を意識するのが正解の人もいます!)、ここでは「ゆっくり吐く」という表現にしておきたいと思います。

練習では常に難しい方を選択する

 ある程度経験のある人が基礎的な練習をする時には、いつでもより難しいシチュエーションを想定するべきです。今回の話で言えば、「強い音」の練習よりも「やわらかい音」の練習に時間を擁しますし、中途半端な長さのスタッカートよりも、短いけどちゃんと鳴るスタッカートの質を高めるための練習が必要です。
 基礎練習のために基礎練習をしているのではなく、好きな曲を思ったように演奏するために必要な技術を習得するために行うのです。それと同時に、自分の練習や生徒さんのレッスンの際、いつも「ニュートラル」を忘れないように心がけたいと思っています。大きすぎず小さすぎず、強すぎず弱すぎず、固すぎず柔らかすぎず、明るすぎず暗すぎず…いざという時にどこにでも行けるようにしておきたいのです。